エディントン数 (Eddington number)は、アーサー・エディントンが1938年に予想した、観測可能な宇宙に存在する陽子の数であるとした数である[1]。
概要[]
エディントン数として主張された最初のバージョンは以下の数値である。
\begin{eqnarray} N_\text{Edd}&=&136\times2^{256}\approx1.57477\times10^{79} \\ &=&15747724136275002577605653961181555468044717914527116709366231425076185631031296 \end{eqnarray}
エディントン数は、物理定数の\(\alpha^{-1}\) (微細構造定数の逆数) と関連付けられている。\(\alpha^{-1}\)は、当時の観測技術では\(136\)に非常に近いとされていた。エディントンは審美的かつ数秘術的考えから、\(\alpha^{-1}\)は正確に\(136\)に等しくなければならないとし、宇宙に存在する陽子 (及び対となる電子) の数を推定した。1939年の自身の講義中に、エディントンはエディントン数の正確な数を読み上げたとされている[2]。
その後[]
\(\alpha^{-1}\)に整数が登場する事について、その物理学的意味や必然性について考察する事は、何もエディントンに限った話ではなく、その時代の多くの科学者に観られた事である。
しかしながら、エディントン数が主張されて間もなく、\(\alpha^{-1}\)は\(136\)ではなく\(137\)に近い事が分かり、間もなくエディントンはエディントン数を変更した。この主張の変更は、エディントンの科学者としての評判を落としたとされている。というのは、1929年の時点では、エディントンは\(\alpha^{-1}\)は\(137\)に等しいと主張していた為、これで2度目の主張の変更となった為である[3]。更に時代が下ると、\(\alpha^{-1}\)の正確な値は次のようになり、小数点以下僅か2桁目で\(0\)以外の値が登場し、整数に似ている事は単なる偶然であろうという見方が大勢となった。
\(\alpha^{-1} = 137.035999084(21) \)[4]
現在では、エディントン数が現代宇宙論に偶然以上の何らかの意味を持つと真剣に考える科学者はいないとされている。
真のエディントン数[]
非常に粗い見積もりであるが、現代宇宙論における陽子の数は、偶然にもエディントン数に近い。これは、宇宙の物質の平均密度が、水素原子に換算し\(1\text{m}^{3}\)当たり3個存在するという予想から計算すると、宇宙の陽子の数は\(1.2\times10^{79}\)個になる為である。ただし、実際には陽子は3個のクォークで構成されており、エディントン自身も言及した通り、対となる電子も存在する。また、他の素粒子ははるかに数が多いと推定されるものがあり、特にニュートリノは\(1\text{m}^{3}\)当たり\(10^{7}\)個、光子は\(1\text{m}^{3}\)当たり\(3\times10^{8}\)個存在すると予測されている為、この場合は\(1.2\times10^{86}\)個のニュートリノと\(1.1\times10^{89}\)個の光子が観測可能な宇宙には存在する事になる。暗黒物質と暗黒エネルギーを省いても、観測可能な宇宙にある素粒子の総数は\(10^{97}\)個と推定されている[5]。
出典[]
- ↑ Eddington Number
- ↑ Eddington (1939), lecture titled "The Philosophy of Physical Science".
- ↑ Edmund Whittaker. (Oct, 1945) "Eddington's Theory of the Constants of Nature" The Mathematical Gazette, Vol. 29, No. 286, pp. 137-144
- ↑ CODATA Value: inverse fine-structure constant
- ↑ Notable Properties of Specific Numbers