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西洋の命数法では、西洋の諸言語圏で使われる大数の命数法についてまとめる。

概要[]

西洋の諸言語ではロングスケール (Long scale) とショートスケール (Short scale) と呼ばれる2種類の命数法が存在する。ロングスケールは主にヨーロッパ亜大陸地域、およびこれらの国がかつて植民地や従属国としていたフランス語圏、ドイツ語圏、スペイン語圏、ポルトガル語圏の国で使用される。一方でショートスケールは主にアメリカとイギリスで使用されている。

ただし、上記は非常に大雑把な説明であり、多くの例外が存在する。例えばイギリスは現在ショートスケールを使用しているが、歴史的にはロングスケールを使用していた。フランスは現在ロングスケールを使用しているが、歴史的にはロングスケールから始まり、途中ショートスケールであった時代もあった。ブラジルはポルトガル語圏であるがショートスケールである。旧宗主国に寄らずショートスケールを使用しているアフリカやオセアニアの国々の例や、語源が異なる中東などでもショートスケールと同等の命数法が使用されている例もある。漢数字による命数法が使われている日本を始めとして、アジア諸国はロングスケールでもショートスケールでもない独自の命数法や桁上がりが使用されている国もある。

1948年の第9回国際度量衡総会にて国際実用計量単位系 (Practical system of units of measurement for international use) の設立が要請されたが、その中でフランス政府の討議文書の草案が添えられていた。それによれば、現在ショートスケールを使用している国々に対し、ロングスケールへの切り替えを要請していた[1]。しかしながら、この要請は1960年に国際実用計量単位系が国際単位系として設立された後も解決されず、英語圏でショートスケールが使用されていることから、ショートスケールがデファクトスタンダードとして使用されている。

命数法[]

概要[]

ロングスケールもショートスケールも、基本的にはラテン語の倍数接頭辞を付けることで大きさを表す。接尾辞については、ショートスケールは "-illion" のみである一方、ロングスケールは "-illion" と "-illiard" の2種類を使用する場合もある。

ショートスケールは\(n\text{-illion}=10^{3n+3}\)を基本とする一方、ロングスケールは\(n\text{-illion}=10^{6n}\)であり、\(n\text{-illiard}=\text{thousand }n\text{-illion}=10^{6n+3}\)という間のスケールが挟まる。ここで\(n\)にはラテン語の倍数接頭辞が入り、また\(\text{Million}=10^{3\times1+3}=10^{6\times1}=10^{6}\)である。

一覧[]

ラテン語の倍数接頭辞で無数に可能であるため、以下は一例である。またショートスケールでのセンティリオン以降は、実際の使用を意図したものではなく、発音の面白さを狙った造語と考えてよい。

大きさ 名称 漢数字
ショートスケール ロングスケール (及び別名)
\(10^{6}\) Million Million
\(10^{9}\) Billion Milliard (Thousand million)
\(10^{12}\) Trillion Billion
\(10^{15}\) Quadrillion Billiard (Thousand billion) 千兆
\(10^{18}\) Quintillion Trillion
\(10^{21}\) Sextillion Trilliard (Thousand trillion) 十垓
\(10^{24}\) Septillion Quadrillion 𥝱
\(10^{27}\) Octillion Quadrilliard (Thousand quadrillion) 千𥝱
\(10^{30}\) Nonillion Quintillion
\(10^{33}\) Decillion Quintilliard (Thousand quintillion)
\(10^{36}\) Undecillion Sextillion
\(10^{39}\) Duodecillion sextilliard (Thousand sextillion) 千澗
\(10^{42}\) Tredecillion Septillion
\(10^{45}\) Quattuordecillion Septilliard (Thousand septillion)
\(10^{48}\) Quindecillion Octillion
\(10^{51}\) Sexdecillion Octilliard (Thousand octillion) 千極
\(10^{54}\) Septendecillion Nonillion 恒河沙
\(10^{57}\) Octodecillion Nonilliard (Thousand nonillion) 阿僧祇
\(10^{60}\) Novemdecillion Decillion 那由他
\(10^{63}\) Vigintillion Decilliard (Thousand decillion) 千那由他
\(10^{66}\) Unvigintillion Undecillion 不可思議
\(10^{69}\) Duovigintillion Undecilliard (Thousand undecillion) 無量大数
\(10^{303}\) Centillion Quinquagintilliard (Thousand quinquagintillion)
\(10^{600}\) Novemnonagintillion Centillion
\(10^{3003}\) Millillion Quingentilliard (Thousand quingentillion)
\(10^{6000}\) Novemnonagintinongentillion Millillion
\(10^{3000003}\) Milli-millillion Milli-quingentilliard (Thousand milli-quingentillion)
\(10^{6000000}\) Millinovemnonagintinongentillion-novemnonagintinongentillion Milli-millillion

コンウェイの命数法[]

コンウェイガイは、-illionによる名数法を拡張し、以下の表によって n<1000 に対する第n zillion、すなわち n-illion を命名した[2][3][4]。n<10 に対しては、英語の標準的な名前を使う。

N 1の位 10の位 100の位
1 un N deci NX centi
2 duo MS viginti N ducenti
3 tre (*) NS triginta NS trecenti
4 quattuor NS quadraginta NS quadringenti
5 quin (**) NS quinquaginta NS quingenti
6 se (*) N sexaginta N sescenti
7 septe (*) N septuaginta N septingenti
8 octo MX octoginta MX octingenti
9 nove (*) nonaginta nongenti
  • (*) 注: S または X がついている言葉の直前では、tre は tres になり、また se は ses (Sの場合)あるいは sex (Xの場合)になる。同様に、Mがついている言葉の直前では septe は septem に、nove は novem になり、Nがついている言葉の直前では septe は septen に、nove は noven になる。
  • (**) 以下に説明するように、quinqua を quin に変えている。

第10 zillionから第999 zillionまでのいかなる数も、この表の適切な列を読み取って、最後の母音(aまたはi)を「illion」に変えることで名付けることができる。たとえば、

  • 234番目の -illion は、 quattuor と triginta と ducenti と llion をつなぎあわせて quattuortrigintaducentillion と名付けられる。
  • 34番目の -illion は、 quattuor と triginta をつなぎあわせて quattuortriginta とし、最後の a を illion と変えることで quattuortrigintillion と名付けられる。

コンウェイとガイは、アラン・ヴェクスラー (Allan Wechsler) とともにこのシステムを N≥1000 に対して次のように拡張した[2][3]

アラン・ヴェクスラーと私たちは、この数の命名法を次のように組み合わせて、いつまでも数を数えて行ける仕組みを提案しています。たとえば、「XilliYilliZillion」で第(1000000X + 1000Y + Z) zillion を表すことにして、桁が飛んでいるときには第0 zillionを表す「nillion」を使うことにします。つまり、「million-and-third zillion」ならば、「millinillitrillion」といいます。

Miakinen は、15番目として quindecillion がよく使われていることと、ラテン語の15は quinquadecim ではなくて quindecim であることから、コンウェイの表において、すべての quinqua を quin に変えるべきであるとした[5]。Robert Munafo はこの提案を受け入れ、1の位の quinqua を quin に変えたものを Conway-Wechsler システムと呼ぶこととした。上記の表はこの慣例にしたがっている。なお、コンウェイの名数法では16番目と19番目がそれぞれ sexdecillion と novemdecillion になるところ、sexdecillion と novemdecillion という名称の方が一般的である。これについては、ラテン語の考察からコンウェイのシステムが合理的であるとしている。なお、Miakinen はコンウェイの命数法を一部改変したフランス語の命数法の提案をしていて、そこでは quinqua を quin に変えるだけでなく、綴りの一部を e から é に変えることが含まれているが、これはフランス語の特徴によるものであるため英語では無関係である。

コンウェイとガイは、このようなすべての自然数 n に対する n-illion のシステムはこの本ではじめて登場するものであるとしていて[2]、現在では英語でコンウェイのシステムが広く使われている。

フィッシュは Conway-Wechsler システムの n 番目の数の名前を計算するプログラムと、そのプログラムによって作成した -illion の一覧表を作成した[6]

英語版の Googology Wiki では、999番目の illion までは、英語で標準的に使われている sexdecillion と novemdecillion を除いて、記事のタイトルとしてコンウェイの命数法による数の名前を採用している。

なお、コンウェイのシステムは tre - tres や se - ses - sex などの変化が複雑であるため、そのような変化をなくして単純化した命数法が使われていたこともあるが、そのシステムは trecentillion が2つの異なる数を意味する不完全なものであることがミュークによって指摘された[7]

歴史[]

David Eugene Smithによれば、13世紀にMaximus Planudesによって書かれたMillion (\(10^{6}\)) が、現在に通ずる命数法の確認可能な最古の使用例である。英語 (正確には中英語) でMillionが登場するのは、14世紀後半にWilliam Langlandによって書かれた "Piers Plowman" が確認可能な最古の例である[8]

現在のような具体的なルールが策定されたのは、1475年にジェオン・アダムが提案した命数法である。アダムは写本 "Traicté en arismetique pour la practique par gectouers" の中で、\(10^{6}\)のMillionを基準に、\(10^{9}\)をBymillion、\(10^{12}\)をTrimillionと命名した[9]。1484年にNicolas Chuquetによって提案された命数法は、より現在の物に近く、これによってヨーロッパではロングスケールが確立した。ChuquetはByllion (\(10^{12}\))、Tryllion (\(10^{18}\))、Quadrillion (\(10^{24}\))、Quyllion (\(10^{30}\))、Sixlion (\(10^{36}\))、Septyllion (\(10^{42}\))、Ottyllion (\(10^{48}\))、Nonyllion (\(10^{54}\))までを命名した。この記述は長らくEstienne de La Rocheによる1520年代の "L'arismetique" に帰属無しで転載されており、オリジナルのテキストは1870年代に発見され、Aristide Marreによって1880年にまとめられた[10]

アメリカは、当時のフランスがショートスケールであったことから、ショートスケールで定着している。例えばHenry Watson Fowlerによって編纂された "A Dictionary of Modern English Usage" では、Billionの意味が異なることに言及している。アメリカはショートスケールであったが、当時のイギリスはロングスケールであり、フランスはショートスケールであったことから、アメリカとイギリスではBillionの意味が異なることに言及している[11]。この編纂から半世紀後、アメリカはルールを変更しなかったが、イギリスとフランスはそれぞれルールを変更している。

フランス政府官報 "Journal officiel de la République français" は、1961年にフランスでのロングスケールの正式な使用を確認している[12]

イギリスでは1974年にショートスケールの使用が正式に確認されている。保守党議員Robin Maxwell-Hyslopが1974年12月20日にハロルド・ウィルソン首相に対し「閣僚の公式スピーチ、公式文章、議会質問への解答で "Billion" を使用する際、それはアメリカで使用されている "1000 million" (\(10^{9}\)) ではなく、 "1 million million" (\(10^{12}\)) を指すのか」と質問し、ウィルソン首相が「いいえ。国際的に "Billion" は "1000 million" として使用されている。」と回答したためである[13]

出典[]

  1. The Conférence Générale des Poids et Mesures. "Resolution 6 of the 9th CGPM (1948)". Bureau international des poids et mesures.
  2. 2.0 2.1 2.2 Conway and Guy (1995) "The book of Numbers" Copernicus
  3. 3.0 3.1 J.H.コンウェイ、R.K.ガイ 『数の本』 根上生也訳、シュプリンガー・フェアラーク東京, 2001年12月
  4. Robert Munafo The Conway-Wechsler System
  5. Olivier Miakinen. Les zillions selon Conway, Wechsler... et Miakinen (フランス語) 2003-05-21
  6. Fish Conway's zillion numbers with a program, July 25, 2021
  7. ミューク (myuuk)のツイート 2022年2月20日
  8. David Eugene Smith. "History of Mathematics. Vol. II". Courier Dover Publications. 1953; 81. ISBN: 978-0-486-20430-7
  9. Lynn Thorndike. "The Arithmetic of Jehan Adam, 1475 A. D." The American Mathematical Monthly, 1926; 33 (1) 24-28. DOI: 10.2307/2298533
  10. Nicolas Chuquet. "Le Triparty en la Science des Nombres par Maistre Nicolas Chuquet Parisien". Bulletino di Bibliographia e di Storia delle Scienze Matematische e Fisische, 1484.
  11. Henry Watson Fowler. "A Dictionary of Modern English Usage". Oxford University Press, 1926; 52-53.
  12. "Décret 61-501". Journal officiel de la République français.
  13. ""BILLION" (DEFINITION); HC Deb 20 December 1974 vol 883 cc711-2W". UK Parliament.

関連項目[]

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