マーロ基数 (あるいは強マーロ基数) は、強到達不能基数 \(\kappa\) であって \(\kappa\) 未満の強到達不能基数全体のなす \(\kappa\) の部分集合が \(\kappa\) の定常集合となるもの—すなわち \(\kappa\) の任意のclub集合がある到達不能基数を元に持つものである。最小のマーロ基数を指して単にマーロ基数 \(M\) と呼ぶこともある。(「マーロ」は形容詞としても用いることができ、例えば「 \(\kappa\) はマーロ基数である」という代わりに「 \(\kappa\) はマーロである」ということができる)
また、弱マーロ基数とは、弱到達不能基数 \(\kappa\) であって \(\kappa\) 未満の弱到達不能基数全体のなす部分集合が \(\kappa\) の定常集合となるものである。この定義において「弱到達不能基数」の部分を「正則」に変えても同値である。もし一般連続体仮説を仮定すると、マーロ基数と弱マーロ基数は等価な概念となる。マーロ基数(および弱マーロ基数)はZFCでは(ZFCが無矛盾であると仮定すると)存在を証明できず、またZFCに到達不能基数がいくつか存在することを課す公理を加えても(やはりそれが無矛盾であると仮定すると)存在を証明できない。それにもかかわらず、ZFC + "マーロ基数の存在" は無矛盾であると推測されている。
弱マーロ基数はよく順序数崩壊関数に現れるため、巨大数論にも縁が深い。
Club集合と定常集合[]
正則性と到達不可能性の概念は到達不能基数の記事で説明されている。マーロ基数を論じる上では定常集合を定義する必要があり、そのためにclub集合を定義する必要がある。
\(S\) が極限順序数 \(\alpha\) のclub集合であるとは、 \(S\) が \(\alpha\) の部分集合であり、 \(S\) は \(\alpha\) の閉集合であり(すなわち空でない任意の部分集合 \(S' \subset S\) に対し、 \(\sup_{\beta \in S'} \beta\) が \(\alpha\) 未満であればそれが \(S\) に属し)、 \(S\) は \(\alpha\) で非有界である(すなわち任意の \(\beta \in \alpha\) に対し、 \(\beta \in \gamma\) を満たす \(\gamma \in S\) が存在する)ということである。直感的には、 \(S\) は \(\alpha\) の一部で、 \(S\) は \(\alpha\) 未満の自分自身の収束点を含み、 \(\alpha\) の全ての要素は \(S\) の何らかの要素を下回る、ということである。
例: 可算極限順序数全体の集合 \(A\) は \(\omega_1\) のclub集合である。実際、可算極限順序数の極限はただ1つの例外を除き、いつも可算極限順序数である。その例外とは \(\omega_1\) であり、実際 \(A\) の極限が \(\omega_1\) となり、かつ \(\omega_1\) は \(A\) に属さない。一方で \(\omega_1\) 自体は \(\omega_1\) の要素でないため、この例外に関係なく \(A\) は \(\omega_1\) の閉集合である。 \(A\) は \(\omega_1\) で非有界であり、実際任意の可算順序数 \(\alpha\) は \(\alpha \times \omega \in A\) 未満である。 よって、 \(A\) は \(\omega_1\) のclub集合である。(一般に、極限順序数 \(\alpha\) に対し \(\alpha\) 未満の順序数全体のなす集合は \(\alpha\) そのものであり、特に \(\alpha\) のclub集合であることが容易に分かる。)
\(S\) が極限順序数 \(\alpha\) の定常集合であるとは、 \(S\) が \(\alpha\) の任意のclub集合と交わる、すなわち \(\alpha\) の任意のclub集合 \(C\) に対して \(S \cap C \neq \emptyset\) となるということである。
強到達不能基数 \(\kappa\) に対し、\(\kappa\) 未満の強到達不能基数全体のなす \(\kappa\) の部分集合を \(\textrm{Inacc}_{\kappa}\) と置く。マーロ基数とは、強到達不能基数 \(\kappa\) であって \(\textrm{Inacc}_{\kappa}\)が \(\kappa\) の定常集合であるもののことであった。以上の定義を踏まえるとそれはすなわち \(\kappa\) の任意のclub集合 \(C\) に対して \(\textrm{Inacc}_{\kappa} \cap C \neq \emptyset\) となるということであり、それはすなわち \(C\) に属する強到達不能基数が少なくとも1つ存在するということである。
高階のマーロ基数[]
基数 \(\kappa\) が \(1\)-マーロであるとは、 \(\kappa\) がマーロであり、かつ \(\kappa\) 未満のマーロ基数全体のなす部分集合が \(\kappa\) の定常集合となるということである。一般に、順序数 \(\alpha\) に対し \(\kappa\) が \(\alpha\)-マーロであるとは、 \(\kappa\) がマーロであり、かつ任意の \(\beta < \alpha\) に対し、 \(\kappa\) 未満の \(\beta\)-マーロ基数全体のなす部分集合が \(\kappa\) の定常集合となるということである。
基数 \(\kappa\) がhyper-マーロであるとは、それが \(\kappa\)-マーロであるということである。
マーロ作用素[]
高階のマーロ基数はマーロ作用素という作用素を考えることで捉えやすくなる。\(\mathrm{Stat}_\kappa\)を\(\kappa\)で定常な集合全体とすればマーロ作用素\(\mathrm{Mh}\)は以下のように定義される。
\(\mathrm{Mh}(X):=\{\xi\in X\mid X\cap\xi\in\mathrm{Stat}_\xi\}\)
ここで正則基数全体を\(\mathrm{Reg}\)とすれば弱マーロ基数は\(\mathrm{Mh}(\mathrm{Reg})\)の要素として表される。
ここで再帰的に
\(\begin{align*}\mathrm{Mh}^0(X)&:=X\\ \mathrm{Mh}^{\alpha+1}(X)&:=\mathrm{Mh}(\mathrm{Mh}^\alpha(X))\\ \mathrm{Mh}^\lambda(X)&:=\bigcap_{\xi<\lambda}\mathrm{Mh}^\xi(X)\quad \text{for limit ordinal $\lambda$}\end{align*}\)
とすれば\(\mathrm{Mh}^\alpha(\mathrm{Reg})\)に属する集合は\(\alpha\)-弱マーロ基数全体となり、\(\mathrm{Mh}\)の対角化\(\mathrm{Mh}^\triangle(X):=\{\xi>0\mid\xi\in\mathrm{Mh}^\xi(X)\}\)とすれば\(\mathrm{Mh}^\triangle(\mathrm{Reg})\)がhyper-弱マーロ基数全体,同様に反復を定義することで\((\mathrm{Mh}^\triangle)^\triangle(\mathrm{Reg})\)はhyper-hyper-弱マーロ基数全体となる。 ここで強マーロ基数を考えたい場合,強極限性を課せば良い
関連項目[]
以下は最小の弱マーロ基数や高階の弱マーロ基数を用いた順序数崩壊関数である。
- ブーフホルツのψ関数(弱マーロ基数に基づく)
- ラティエンのψ関数(英語版)
- ラティエンのΨ関数(英語版)