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前置き[]

このブログ記事を読む前に、EBO以上の順序数の解説 (3)を読んでおくことをおすすめします。


前回のおさらいと今回の概要[]

前回でラティエンのΦ関数を強くするなら

  1. 変数の数を増やす(多変数化)
  2. 非可算基数を出力する順序数崩壊関数(OCF)にする

方法があると説明し、1.の方法を解説しました。

今回は2.の方法で強くします。


非可算基数を出力するOCFを作る(1)[]

EBOCFを改造して、オメガ不動点を出力するようにしてみましょう。

まずはEBOCFの定義を再掲します。

  • \(C_\nu^0(\alpha) = \Omega_\nu\)
  • \(C_\nu^{n+1}(\alpha) = \{\xi+\zeta\mid\xi\in C_\nu^n(\alpha)\land \zeta\in C_\nu^n(\alpha)\}\cup\{\psi_\mu(\xi)\mid \mu\in C_\nu^n(\alpha)\land\xi\in C_\nu^n(\alpha)\cap \alpha\}\)
  • \(C_\nu(\alpha) = \bigcup_{n < \omega} C_\nu^n (\alpha)\)
  • \(\psi_\nu(\alpha) = \min\{\xi \mid \xi \notin C_\nu(\alpha)\}\)

ここで \(\Omega_0:=1,\Omega_\xi:=\aleph_\xi(\xi>0)\) とする。

閉包を使用して簡潔にします。

\(\O_\a\)の定義
  1. \(\O_0 := 1,\O_{1+\a} := \aleph_\a = \omega_\a\)
\(C_\n(\a)\)と\(\p_\n(\a)\)の定義
  1. \(C_\n(\a)\)は以下の閉包である:
    1. \(\O_\n\)
    2. \(+\)
    3. \((\m,\x) \mapsto \p_\m(\x) ~ (\x < \a)\)
  2. \(\p_\n(\a)\)は\(C_\n(\a)\)に属さない最小の順序数である。

出力は\(\x \mapsto \O_\x\)を追加することでオメガ不動点になるでしょう。崩壊対象はどうしましょう?


弱到達不能基数[]

非可算基数を出力するOCFの崩壊対象として一般的に使われるのが弱到達不能基数です。
弱到達不能基数は「非可算で正則な極限基数」として定義されます。
弱到達不能基数と(それより小さい)非可算基数の関係は、\(\O\)と可算順序数の関係と同じようなものです。

一般的に、最小の弱到達不能基数は\(I\)と表されます。


非可算基数を出力するOCFを作る(2)[]

それでは崩壊対象を\(I\)に置き換えて、OCFを構成します。

\(B(\a)\)と\(\c(\a)\)の定義
  1. \(B(\a)\)は以下の閉包である:
    1. \(\{0,I\}\)
    2. \(\x \mapsto \o_\x\)
    3. \(\x \mapsto \c(\x) ~ (\x < \a)\)
  2. \(\c(\a)\)は\(B(\a)\)に属さない最小の順序数である。

期待通りの挙動になってるか観察しましょう。

  • \(\c(0) = 1\)
  • \(\c(1) = 2\)
  • \(\c(2) = 3\)

...あれ???

どうしてこうなったのでしょう? \(\c(0)\)が最小のオメガ不動点になるためには、\(B(0)\)にオメガ不動点未満のすべての順序数が属する必要があります。
これの解決策は2通りあります。

  1. \(B(\a)\)の閉包に、「基数\(\k \in B(\a)\)未満のすべての順序数の集合」を追加する。
  2. \(B\)と\(c(\a)\)の定義を少し変える。

2.の方が定義が簡潔になり、さらにOCFを強くすることも簡単なので、今回は2.の方法をで解決します。


修正した定義は以下のようになります。

順序数\(\a,\b\)に対し、集合\(B(\a,\b)\)と関数\(\c(\a)\)を以下のように定める:
  1. \(B(\a,\b)\)は以下の閉包である:
    1. \(\b \cup \{I\}\)
    2. \(\x \mapsto \o_\x\)
    3. \(\x \mapsto \c(\x) ~ (\x < \a)\)
  2. \(\c(\a) := \min\{\x \in \CARD \mid (B(\a,\x) \cap I) \subseteq \x\}\)

ここで、\(\CARD\)は非可算基数全体の集合である。

\(B(\a,\x)\)や\(\c\)の定義文を文章にすると以下のようになります。

  • \(B(\a,\x)\)は\(\x \cup \{I\},\g \mapsto \o_\g,\x \mapsto \c(\x) ~ (\x < \a)\)の閉包、つまり「\(\x\)未満のすべての順序数と\(I\)と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\x \mapsto \c(\x) ~ (\x < \a)\)で表せるすべての順序数の集合」になる。
  • \((B(\a,\x) \cap I)\)は、「\(I\)未満の\(B(\a,\x)\)のすべての要素の集合」になる。
  • \((B(\a,\x) \cap I) \subseteq \x\)は、「\(I\)未満の\(B(\a,\x)\)のすべての要素より大きい順序数」になる。
  • \(\min\{\x \in \CARD \mid (B(\a,\x) \cap I) \subseteq \x\}\)は「\(I\)未満の\(B(\a,\x)\)のすべての要素より大きい、最小の非可算基数」になる。

これを踏まえたうえで、\(\c\)の挙動を観察してみましょう。

\(\c(0)\)
  1. \(B(0,\x)\)は「\(\x\)未満のすべての順序数と\(I\)と\(\g \mapsto \o_\g\)で表せるすべての順序数の集合」になる。
  2. \(B(0,\x) \cap I\)は\(I\)未満の\(B(0,\x)\)のすべての要素の集合。
    つまり「\(\x\)未満のすべての順序数と\(\g \mapsto \o_\g\)で表せるすべての順序数の集合」になる。
  3. \((B(0,\x) \cap I) \subseteq \x\)は\(I\)未満の\(B(\a,\x)\)のすべての要素より大きい順序数。
    つまり「\(\x\)未満のすべての順序数と\(\g \mapsto \o_\g\)で表せるすべての順序数より大きい、最小の順序数」になる。
  4. \(\min\{\x \in \CARD \mid (B(0,\x) \cap I) \subseteq \x\}\)は\(\x\)未満のすべての順序数と\(\g \mapsto \o_\g\)で表せるすべての順序数より大きい、最小の非可算基数。
    つまり「\(\g \mapsto \o_\g\)の最小の不動点」(=最小のオメガ不動点)になる。
\(\c(1)\)
  1. \(B(1,\x)\)は「\(\x\)未満のすべての順序数と\(I\)と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\c(0)\)で表せるすべての順序数の集合」になる。
  2. \(B(1,\x) \cap I\)は「\(\x\)未満のすべての順序数と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\c(0)\)で表せるすべての順序数の集合」になる。
  3. \((B(1,\x) \cap I) \subseteq \x\)は「\(\x\)未満のすべての順序数と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\c(0)\)で表せるすべての順序数より大きい、最小の順序数」になる。
  4. \(\min\{\x \in \CARD \mid (B(1,\x) \cap I) \subseteq \x\}\)は\(\x\)未満のすべての順序数と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\c(0)\)で表せるすべての順序数より大きい、最小の非可算基数。
    つまり「\(\g \mapsto \o_\g\)の2番目の不動点」(=2番目のオメガ不動点)になる。
\(\c(2)\)
  1. \(B(2,\x)\)は「\(\x\)未満のすべての順序数と\(I\)と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\c(0),\c(1)\)で表せるすべての順序数の集合」になる。
  2. \(B(2,\x) \cap I\)は「\(\x\)未満のすべての順序数と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\c(0),\c(1)\)で表せるすべての順序数の集合」になる。
  3. \((B(2,\x) \cap I) \subseteq \x\)は「\(\x\)未満のすべての順序数と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\c(0),\c(1)\)で表せるすべての順序数より大きい、最小の順序数」になる。
  4. \(\min\{\x \in \CARD \mid (B(2,\x) \cap I) \subseteq \x\}\)は\(\x\)未満のすべての順序数と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\c(0),\c(1)\)で表せるすべての順序数より大きい、最小の非可算基数。
    つまり「\(\g \mapsto \o_\g\)の3番目の不動点」(=3番目のオメガ不動点)になる。
\(\c(3)\)から\(\c(I)\)まで
  1. \(\c(3)\)は\(\g \mapsto \o_\g\)の4番目の不動点、つまり4番目のオメガ不動点
  2. \(\c(4)\)は\(\g \mapsto \o_\g\)の5番目の不動点、つまり5番目のオメガ不動点
  3. \(\c(\o)\)は\(\o\)番目のオメガ不動点
  4. \(\c(\c(0))\)は\(\c(0)\)番目のオメガ不動点
  5. \(\c(\c(\c(0)))\)は\(\c(\c(0))\)番目のオメガ不動点
\(\c(I)\)
  1. \(B(I,\x)\)は「\(\x\)未満のすべての順序数と\(I\)と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\g \mapsto \c(\g) ~ (\g < I)\)で表せるすべての順序数の集合」になる。
  2. \(B(I,\x) \cap I\)は「\(\x\)未満のすべての順序数と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\g \mapsto \c(\g) ~ (\g < I)\)で表せるすべての順序数の集合」になる。
  3. \((B(I,\x) \cap I) \subseteq \x\)は「\(\x\)未満のすべての順序数と\(\g \mapsto \o_\g\)と\(\g \mapsto \c(\g) ~ (\g < I)\)で表せるすべての順序数より大きい、最小の順序数」
    つまり「\(\g \mapsto \o_\g\)の不動点かつ\(\g \mapsto \c(\g) ~ (\g < I)\)の不動点である最小の順序数」になる。
  4. \(\min\{\x \in \CARD \mid (B(I,\x) \cap I) \subseteq \x\}\)は\(\g \mapsto \o_\g\)の不動点かつ\(\g \mapsto \c(\g) ~ (\g < I)\)の不動点である最小の順序数。
    つまり「\(\x = \c(\x)\)を満たす最小の非可算基数\(\x\)」になる。

期待通りの挙動になってますね!