巨大数研究 Wiki

順序数講座の11回目です。前回は、フェファーマンのθ関数を紹介しました。

今回の講座では、ブーフホルツがフェファーマンのθ関数を改良して1986年に次の論文で発表したブーフホルツのψ関数を紹介します。

Buchholz, W. (1986) "A New System of Proof-Theoretic Ordinal Functions". Annals of Pure and Applied Logic, 32; 195-207.

論文の最初のところだけ読んでみます。

この論文では ψν (ν ≤ ω) という順序数の関数族を発表する。これは大きな構成的順序数を表記するこれまでの中で最も簡単な方法のようである。これらの関数はθ関数の簡略化バージョンであるが、同じ強さを持つ。(原文: In this paper we present a family of ordinal functions ψν (ν ≤ ω), which seems to provide the so far simplest method for denoting large constructive ordinals. These functions are a simplified version of the θ-functions, but nevertheless have the same strength as those.)

つまり、θ関数よりも「簡単なのに同じ強さ」というセールスポイントで発表された関数です。これがその定義です。

定義(ブーフホルツのψ関数)
ブーフホルツのψ関数 ψν(α) = ψνα を次のように定義する。
  1. 順序数 ν, α に対して、集合 Cν(α) を次のように定める。
  2. Ων よりも小さいすべての順序数は集合 Cν(α) の要素
  3. βとγが集合 Cν(α) の要素のとき、β+γ は集合 Cν(α) の要素
  4. ηが集合 Cν(α) の要素で、η<α かつ μ≤ω のとき、ψμ(η) は Cν(α) の要素
  5. 2から4の有限の繰り返しで定義される順序数のみが集合 Cν(α) の要素
  6. ψν(α) = min(γ|γ∉Cν(α))

ここで Ων

  1. Ω0 = 1
  2. ν>0 のとき Ων = ℵν = ων
上記の定義は次のようにも書ける。
  1. \(C_\nu^0(\alpha) = \Omega_\nu\)
  2. \(C_\nu^{n+1}(\alpha) = \{\beta+\gamma,\psi_\mu(\eta)|\beta, \gamma,\eta\in C_{\nu}^n(\alpha)\wedge\eta<\alpha \wedge \mu \leq \omega\}\)
  3. \(C_\nu(\alpha) = \bigcup_{n < \omega} C_\nu^n (\alpha)\)
  4. \(\psi_\nu(\alpha) = \min\{\gamma | \gamma \not\in C_\nu(\alpha)\}\)
(補足説明)ブーフホルツのオリジナルの定義は、下段の2番目の式を
\(C_\nu^{n+1}(\alpha) = C_\nu^n(\alpha) \cup \{\gamma | P(\gamma) \subseteq C_\nu^n(\alpha)\} \cup \{\psi_\mu(\xi) | \xi \in \alpha \cap C_\nu^n(\alpha) \wedge \xi \in C_\mu(\xi) \wedge \mu \leq \omega\}\),
としています。少し大変ですがこの式を読んでみます。Pは加算で閉じている順序数で、P(γ)はγを加算で閉じている順序数の有限の降順の和であらわしたときの、そのすべての順序数の集合です。つまり{γ|P(γ)⊆Cnν(α)}というのは「γを加算で閉じている順序数の有限の降順の和であらわしたときに、その順序数がすべてCnν(α)の要素に入っているようなγ」であり、言い換えると「Cnν(α)の要素の中から加算の閉じている順序数を選び、その有限の和で作ることのできるような順序数すべて」を考えているわけです。上記の定義の下段2番目と3番目の式は、集合の要素を足し算する操作を有限回繰り返すことで得られる順序数ということなので、どちらの定義でもCν(α)は同じ集合となります。(補足説明終わり)

フェファーマンのθ関数とブーフホルツのψ関数を比較すると、同じところは

  1. 基数 Ων を導入して崩壊しているところ
  2. 加算とある条件のθあるいはψ関数で閉じている集合を考えているところ

違うところはいろいろありますが、特に重要なのは enum 関数ではなく min 関数を使って単純化しているところです。ここで、min は「ある条件を満たす最小の順序数」なので、

min(条件式) = enum(条件式)(0)

ということになります。それではまず ψ0(α) を計算します。

  • α=0 のとき、0と足し算だけしか使えないので C0(0) = {0} となって ψ00 = 1
  • α=1 のとき、0と足し算とψ00 = 1 が使えるので C0(1) はすべての自然数となり ψ01 = ω
  • α=2 のとき、0, 1, ω と足し算が使えるので ψ02 = ω2 となる。これは、ωの次の可算で閉じている順序数を考えていることになる。
  • α=ω のとき、0, 1, ωn (n<ω) が使えるので ψ0ω = ωω
  • 同様に ψ0(ω^ω) = ω^ω^ω
  • 同様に ψ0(ω^ω^ω) = ω^ω^ω^ω
  • ψ0ε0 = ε0

と、このように α ≤ ε0 では φ0 = ωα と同じような仕組みで ψ0(α) = ωα が成り立ちます。ところが α>ε0 では成り立ちません。それは、

ηが集合 C0(α) の要素で η<α のとき、ψ0(η) は C0(α) の要素

という条件で、η=ε0 とするためには C0(α) の要素にε0 が入っていなければならないところ、0 と + とψ0関数の繰り返しではそういうときがやってこないためです。これはθ関数と同じです。このように仕組みのおおまかなところはθ関数と同じなのでスムーズに説明が進みます。まとめると

  • α<εα のとき ψ0α = ωα
  • εα ≤ α ≤ Ω のとき ψ0α = ε0
  • 特に ψ0Ω = ε0

となります。ψ0Ω から先は、θ関数でΩが使えたように ψ1 関数で作られる非可算順序数が使えるようになります。そこで ψ1 関数について考えます。

  • C1(0) は Ω1 未満のすべての順序数、つまりすべての可算順序数と、可算順序数の和によって作られる順序数、つまり結局はすべての可算順序数なので、ψ10 = Ω1 = Ω
  • C1(1) は、すべての可算順序数、ψ1(0) = Ω、Ωの有限個の和と可算順序数の和が含まれるので、ψ11 = Ωω = ωΩ+1 となる。これは、Ωの次の可算で閉じている順序数である。
  • 同様に ψ12 = ψ1(1)ω = Ωω2 = ωΩ+2
  • 一般に α<εΩ+1 であれば ψ1α = ωΩ+α
  • よって ψ110) = ψ1Ω = ωΩ+Ω = ωΩ2
  • さらに ψ13(0) = ψ1Ω2) = ω^(Ω + ωΩ+Ω) = ω^Ω^2 = (ω^Ω)Ω = ΩΩ

ここで、第8回の講座で ε000^α = ω^ε00^α を示したのと同様にして

Ω^Ω^Ω^α = ω^Ω^Ω^α

が成立するため、

ψ14(0) = ω ^ (Ω + ΩΩ) = ω^Ω^Ω = Ω^Ω^Ω
ψ15(0) = ω^Ω^Ω^Ω = Ω^Ω^Ω^Ω

といったように、0 に ψ1 を繰り返すことでΩのタワーができるので

ψ1ω(0) = Ω^Ω^Ω^... = εΩ+1

となります。これがψ1 関数でできる Ω2 よりも小さい順序数の限界となり

ψ1εΩ+1 = εΩ+1

となります。さらに、ψ2(0) = Ω2 まではこれ以上大きくはならないため

ψ120) = ψ1Ω2 = εΩ+1

となります。

このように ψ1 関数で εΩ+1 までの非可算順序数を作ることができたので、これを「崩壊」させて大きな可算順序数を作ります。なお Googology Wiki では、よく ψ0 をψと略記しているので、ここではそのように書いてみます。

  • ψΩ = ε0 は、先ほど計算した通り
  • C0(Ω+1) の要素には ψ(Ω) = ε0 が入るため、ψ(Ω+1) は ε0 の次の加算で閉じた順序数となり、ψ(Ω+1) = ε0ω = ω^(ε0+1)
  • ψ(Ω+2) = ω^(ε0+2)
  • ψ(Ω+ω) = ω^(ε0+ω)
  • ψ(Ω+ψ(Ω)) = ω^(ε0 2)
  • ψ(Ω+ψ(Ω+ψ(Ω))) = ω^(ε0 + ω^(ε0 2)) = ω^ω^(ε0 2)
  • このように ψ(Ω+α) の限界は ω^ のタワーを重ねる不動点となり、ψ(Ω+Ω) = ε1
  • ψ(Ω 3) = ε2
  • ψ(Ω ω) = εω
  • ψ(Ω ψΩ) = φ11(0))
  • ψ(Ω ψ(Ω ψ(Ω)) = φ13(0)
  • ψ(Ω Ω) = φ2(0)
  • ψ(Ω2 + 1) = φ02(0)+1)
  • ψ(Ω2 + Ω) = φ12(0)+1)
  • ψ(Ω2 2) = φ2(1)
  • ψ(Ω2 3) = φ2(2)
  • ψ(Ω2 ω) = φ2(ω)
  • ψ(Ω3) = φ3(0)
  • ψ(Ω3 + 1) = φ03(0)+1)
  • ψ(Ω3 + Ω) = φ13(0)+1)
  • ψ(Ω3 + Ω2) = φ23(0)+1)
  • ψ(Ω3 2) = φ3(1)
  • ψΩω = φω0
  • ψΩα = φα0 (α<Ω)
  • ψΩΩ = Γ0 = θΩ0
  • ψ(Ω^Ω^2) = φ(1,0,0,0) = θΩ20
  • ψ(Ω^Ω^ω) = θΩω0 = SVO
  • ψ(Ω^Ω^Ω) = θΩΩ0 = LVO
  • ψΩα = θα0 (α < εΩ+1)
  • ψεΩ+1 = θεΩ+10 = BHO

バッハマン・ハワード順序数 BHO で、ψがθに追いつきました。enum 関数ベースのフェファーマンのθでは θΩ0 = Γ0 から崩壊が始まり、min 関数ベースのブーフホルツのψでは ε0 から崩壊が始まるため、最初はフェファーマンのθの方が効率よく崩壊が進んでいる(同じ非可算順序数から、より強い可算順序数が得られる)ように見えますが、 εΩ+1 を崩壊させると、どちらも同じ BHO となります。このように、崩壊を早くはじめてしまっても、フェファーマンのθと同じような強さの順序数崩壊関数になる、つまり強さを劣化させずに定義を簡潔化できたというところがブーフホルツのψの肝です。

ブーフホルツは、一般に

α < εΩν+1 かつ ν>0 のとき、ψνα = ω^(Ων+α)

さらには

ψ0εΩν+1 = θεΩν+10 (0<ν≤ω)

が成り立つことを示しました。ここで ν=ω のときが竹内・フェファーマン・ブーフホルツ順序数 TFB です。

TFB = ψ0εΩω+1 = θεΩω+10

フェファーマンのθとの間には、さらに

θΩν0 = ψ0νν) (0<ν<ω)

の関係もあります。

ここでまた「気持ちの図」でフェファーマンのθとブーフホルツのψを比較します。

Theta-phi

θ関数とψ関数の比較

全体的にθ関数の方がψ関数よりも上にあります。Ων (0<ν<ω) を崩壊させたときの強さについては θ > ψ です。そしてθ関数の方がψ関数よりもそれぞれの崩壊段階でよく伸びます。ところが α = εΩν+1 において θα0 = ψ(α) となります。このように新しい基数を加えるごとに εΩν+1 のところでψがθに「追いつく」ため、ψは本質的にθと同じ強さだよ、ということになります。このようにε0で崩壊させてもΓ0で崩壊させても「同じ強さ」の順序数崩壊関数になるのだから、ε0で崩壊させてしまう方が簡単だよね、ということが、ブーフホルツが論文の最初に「θ関数の簡略化バージョンであるが、同じ強さを持つ」と述べているゆえんです。結局のところ

同じ強さなんだから早く崩壊させちゃえ!

ということです。

ブーフホルツのψ関数は、ψν の使い方によって何通りかの同等の表記ができることがあるところが面白いと思います。たとえば、BHO は

BHO = ψ0εΩ+1 = ψ0ψ1Ω2 = ψ0Ω2 = ψ0ψ20 = ψ0ψ1ψ20

のように何通りかの表記ができます。特に、最後の ψ0ψ1ψ20 という表記は、ペア数列の (0,0)(1,1)(2,2) と対応しているところが面白いところです。ペア数列はヒドラなので、ブーフホルツのヒドラと同じように、ブーフホルツのψ関数と対応づけを考えやすいのではないかと思います。

さて、それではブーフホルツのψ関数について、基本列をどのように定めるのかを考えます。ここまでの説明でなんとなく雰囲気は分かったかもしれませんが、しっかりと規則性を理解するためには「共終数」という概念を導入することが必要となります。

共終数によって、基本列を一般化して考えることができます。まず基本列とはなんだったでしょうか。たとえば ω3 という順序数の基本列は

ω3[n] = ω2 + n

のように書きますが、これは n<ω に対してω3[n] を決めて、その極限がω3となるようにした、ということです。では、極限がω3となるとはどういうことでしょうか。それは「ω3 よりも小さいどんな順序数αに対しても、つまりω3という集合のどのような要素αに対しても、α≤ω3[n] となるような n が存在する」ということです。ここで基本列は必ず「ω3よりも小さい順序数」つまり「ω3 という集合の要素」から作られています。ということは「ω3の基本列 ω2 + n を要素とする集合はω3の部分集合」ということになります。そして

ω3のどのような要素αに対しても、その部分集合の中には α≤β となるような要素が存在する

ということです。そのような部分集合を「共終な部分集合」と言います。

定義(共終数と基本列)
集合Aの部分集合Bが以下の条件を満たすとき「BはAと共終である」という。
A の任意の要素 a に対して、a ≤ b となるような B の要素 b が存在する

順序数αの共終数 cf(α) は、αと共終な部分集合の順序型の中で最小のものである。

cf(α) = βのとき、η<β に対して単調増加数列 α[η] (γ<δ ならば α[γ]<α[δ]) で、上極限がαとなるようなものが存在する。そのような α[η] をαの基本列という。このとき、α[η] のみを要素に持つ集合はαと共終な部分集合となる。
巨大数論では cf(α) = ω のときに限って α[η] を「基本列」と呼ぶことが多い。これを「狭義の基本列」とする。この定義のように cf(α) = ω が成立していない場合を含む場合を「広義の基本列」とする。

たとえば、順序数ω3は部分集合である {ω2, ω2+1, ω2+2, ω2+3, ...} の順序型がωとなるため cf(ω3) = ω となり、基本列を ω3[n] = ω2+n のように書くことができたわけです。FGHでは極限順序数αに対して

fα(n) = fα[n](n)

と関数を定義しますが、ここで基本列であるα[n]には関数の引数である n と同じように「すべての自然数」つまり「ω未満の順序数」が入るところに意味があります。つまり巨大数論では共終数がωであるような順序数に限定した「狭義の基本列」を考えているわけです。

そして、このように「共終数」の概念を導入したことで、ブーフホルツのψ関数の基本列を考えるときに、ψの中の順序数の共終数によって場合分けをして考えることができるようになります。

それでは、いろいろな順序数の共終数と基本列を考えてみます。

  • cf(0) = 0、つまり 0 の共終数は0なので基本列はない(あるいは空の数列が基本列である)。
  • 後続順序数α+1の共終数は1であり、(α+1)[0] = α が広義の基本列となる。後続順序数は共終数が定義されないという流儀もあるが、本講座では上記の定義にしたがって後続順序数の共終数を1とする。
  • 可算な極限順序数の共終数はωである。たとえば cf(ε0) = ω, cf(Γ0) = ω, cf(ψ0ΩΩ) = ω, cf(ψ0Ωω) = ω
  • cf(Ω) = Ω で Ω の基本列は Ω[η] = η。ここで、η には cf(Ω) = Ω 未満のすべての順序数が入る。
  • 非可算な極限順序数で共終数がωとなる例: cf(Ω + ω) = ω, (Ω+ω)[n] = Ω+n (n<ω)
  • cf(Ω + ω + 3) = 1, (Ω + ω + 3)[0] = Ω + ω + 2
  • cf(Ω2) = Ω, Ω2[η] = Ω + η (η<Ω)
  • cf(Ωω) = ω, Ωω[n] = Ωn (n<ω)
  • cf(ΩΩ) = Ω, ΩΩ[η] = Ωη (η<Ω)
  • cf(ΩΩ+2) = Ω, ΩΩ+2[η] = ΩΩ+1 η (η<Ω)
  • cf(Ω2) = Ω2, (Ω2)[η] = η (η<Ω2)
  • cf(Ω2 + ω) = ω, (Ω2 + ω)[n] = Ω2 + n (n<ω)
  • cf(Ω2 + Ω) = Ω, (Ω2 + Ω)[η] = Ω2 + η (η<Ω)
  • cf(Ω2 2) = Ω2, (Ω2 2)[η] = Ω2 + η (η<Ω2)
  • β>0 のとき cf(α+β) = cf(β), (α+β)[η]=α+β[η] (η<cf(β))
  • αとβが加算で閉じている極限順序数のとき cf(αβ) = cf(β), (αβ)[η]=α(β[η]) (η<cf(β))
  • αとβが加算で閉じている極限順序数のとき cf(αβ) = cf(β), (αβ)[η]=αβ[η] (η<cf(β))
  • 後続基数 Ωα+1 の共終数は Ωα+1
  • 共終数がそれ自身と等しい基数を正則基数という。ただし0と1は正則基数に含まない
  • 正則基数ではない無限基数を特異基数という。
  • ωと後続基数は正則基数。
  • 極限順序数の共終数は正則基数となる。
  • 極限基数 Ωω は正則基数ではなく特異基数。cf(Ωω) = ω, Ωω[n] = Ωn (n<ω)
  • 極限基数 ΩΩ は正則基数ではなく特異基数。cf(ΩΩ) = Ω, ΩΩ[η] = Ωη (η<Ω)
  • αが極限順序数のとき cf(Ωα) = cf(α), Ωα[η] = Ωα[η] (η<cf(α))
  • α = Ω5 + Ω4 Ω3 のとき、cf(α) = Ω3, α[η] = Ω5 + Ω4η (η<Ω3)のように、式の最後の正則基数が共終数となり、それをηに変えて、ηに共終数未満のすべての順序数が入ったものが広義の基本列となる、と考えればだいたいうまくいく。

順序数崩壊関数の基本列を考えるときの肝は、共終数がΩ以上の順序数に対して「崩壊」によって共終数をどんどん小さくするところにあります。ψνはあらゆる順序数を共終数ℵν以下に崩壊させる関数となり、ψ0の共終数はω以下となるためFGHで使うことができるわけです。

ここで順序数α (α<TFB) のψ関数による標準形を考えます。順序数αを加算で閉じている順序数の降順の和で書き、それぞれの項を ψνβ の形で書いたものを標準形とします。その一番右の項を ψνβ とすると α = ξ+ψνβ と書くことができて、cf(α) = cf(ψνβ) かつ α[η] = ξ+ψνβ[η] となります。したがって ψνβ の共終数と基本列を考えれば、αの共終数と基本列を得ることができます。それは次のように定めることができます。

ψ関数の基本列
α = ψνβ の共終数と基本列をβの共終数によって次のように場合分けして定める。

(1) cf(β) = 0 のとき、つまり α = ψν0

  1. α = ψ00 = 1 であれば cf(α) = 1 であり α[0] = 0
  2. α = ψν+10 であれば cf(α) = Ων+1 であり α[η] = Ων+1[η] = η
  3. α = ψω0 であれば cf(α) = ω であり α[n] = Ωn

(2) cf(β) = 1 のとき、つまり α = ψν(γ+1)

cf(α) = ω であり α[n] = ψν(γ)n

(3) ω ≤ cf(β) < Ων+1 のとき

cf(α) = cf(β) であり α[η]=ψν(β[η])

(4) cf(β) ≥ Ων+1 のとき

cf(α)=ω と崩壊して α[n] = ψν(β[γ[n]])
ここで cf(β) = Ωμ+1 でμを定めて γ[0] = Ωμ, γ[n+1] = ψμ(β[γ[n]])

それぞれの条件を見ると、いずれの場合でも cf(ψνβ) < Ων+1 となっていることがわかります。そのため cf(ψ0β) ≤ ω となります。

特に(4)の崩壊するときの基本列は難しいので、具体例を2つ示します。

(例1) α = ψ0ΩΩ のとき

  • cf(ΩΩ) = Ω なので崩壊する。
  • cf(α) = ω かつ α[n] = ψ0Ω[γ[n]])
  • cf(ΩΩ) = Ω より μ=0
  • γの漸化式は γ[0] = Ω0 = 1, γ[n+1] = ψ0Ω[γ[n]]) = ψ0γ[n])

つまり

  • γ[0] = 1
  • γ[1] = ψ0γ[0]) = ψ0(Ω) = φ(1,0)
  • γ[2] = ψ0γ[1]) = ψ0(Ω^φ(1,0)) = φ(φ(1,0),0)
  • γ[3] = φ(φ(φ(1,0),0),0)

のようなγの基本列ができます。そして、α[n] = ψ0Ω[γ[n]]) なので

  • α[0] = ψ0Ω[γ[0]]) = φ(1,0)
  • α[1] = ψ0Ω[γ[1]]) = φ(φ(1,0),0)
  • α[2] = φ(φ(φ(1,0),0),0)

のようになります。この基本列を見ると崩壊の定義の「気持ち」がわかります。つまりは γ[0] = Ω0 = 1, γ[n+1] = ψ0(β[γ[n]]) の定義によって、β=ΩΩの基本列 β[η] = Ωη と ψ0 を「順次適用する」ものがγの基本列となるため

γ = min(ψ0α) = α)

となるわけです。したがって

γ = ψ0Ω)

となります。ここで μ=0 なので α=γ としても良いのですが、αを定義通りに計算すると上記のような式となります。

ここでは上記の式にしたがって基本列を導きましたが、上記の式を参照しなくても

ψ0ΩΩ = min(ψ0α) = α)

となることがわかれば、これまでの講座で不動点の基本列は繰り返し見てきたので

  • γ[0] = 1
  • γ[n+1] = ψ0γ[n])

という基本列を作ることはできるだろうと思います。

(例2) α = ψ04 Ω3) のとき

  • cf(Ω4 Ω3) = Ω3 なので崩壊する。
  • cf(α) = ω かつ α[n] = ψ04 Ω3[γ[n]])
  • cf(Ω4 Ω3) = Ω3 より μ=2
  • γの漸化式は γ[0] = Ω2, γ[n+1] = ψ04 Ω3[γ[n]])

すなわち

  • γ[0] = Ω2
  • γ[1] = ψ24 Ω3[γ[0]]) = ψ24 Ω2)
  • γ[2] = ψ24 Ω3[γ[1]]) = ψ24 ψ24 Ω2))

γ[0] = Ω2, γ[n+1] = ψ2(β[γ[n]]) の定義によって、β=Ω4 Ω3 の基本列 β[η] = Ω4 η と ψ2 を「順次適用する」ものがγの基本列となるため

γ = min(ψ24 α) = α)

となっています。cf(γ)=Ω2です。そして、α[n] = ψ04 Ω3[γ[n]]) なので

  • α[0] = ψ04 Ω3[γ[0]]) = ψ04 Ω2)
  • α[1] = ψ04 ψ24 Ω2))
  • α[2] = ψ04 ψ24 ψ24 Ω2)))

すなわち

α = ψ04 γ)

となります。ここでαの基本列は ψ0の中が共終数 Ω2 となっています。ψ0 の中だけを見ると、共終数 Ω3 のβを崩壊させて、共終数 Ω2 の Ω4 γ としています。次にこの基本列を取るとψ0の中の共終数が Ω になります。このように、基本列を取るごとに順序数が崩壊してψ0の中の順序数の共終数が小さくなり、やがてψ0の中が例(1)のように共終数ω以下にまで崩壊します。

最後に、ブーフホルツのψ関数を拡張します。ψ関数では、

ηが集合 Cν(α) の要素で、η<α かつ μ≤ω のとき、ψμ(η) は Cν(α) の要素

のところで μ≤ω の条件が入っているため、ψν 関数が ν≤ω までしか使えません。そのため TFB が限界となっていますが、この条件を外せばさらに伸びます(参考: Denis さんのサイト)。

定義(拡張ψ関数)
  1. \(C_\nu^0(\alpha) = \Omega_\nu\)
  2. \(C_\nu^{n+1}(\alpha) = \{\beta+\gamma,\psi_\mu(\eta)|\mu, \beta, \gamma,\eta\in C_{\nu}^n(\alpha)\wedge\eta<\alpha\}\)
  3. \(C_\nu(\alpha) = \bigcup_{n < \omega} C_\nu^n (\alpha)\)
  4. \(\psi_\nu(\alpha) = \min\{\gamma | \gamma \not\in C_\nu(\alpha)\}\)

ここで、μ≤ω の条件を外したかわりに、μをCν(α)の要素にするという条件を加える必要があります。

この拡張ψ関数は少なくとも Ωε0, ΩΩ, Ω_Ω_Ω, Ω_Ω_Ω_Ω, ... のようにオメガ収束点 までは伸ばすことができます。

巨大数論では187ページでブーフホルツのψ関数を紹介しています。そこでは「定義は省略しますので、脚注の原著論文を参照してください」として、脚注で論文を紹介して終わりにしました。巨大数論を書いたときには、マドールのψ関数が Wikipedia の定義がわかりやすいこと、比較的マドールのψ関数が使われていたことなどからマドールのψ関数を中心に説明をしましたが、Γ0で崩壊させるθよりもε0で崩壊させるブーフホルツのψ関数の方が簡単であるように、ζ0で崩壊させるマドールのψよりもε0で崩壊させるブーフホルツのψ関数の方が簡単です。そして、いずれもεΩν+1で等しくなるので同じ強さになります。

これでTFB までの順序数崩壊関数を解説する、というこの講座の目標は達成できました。他にもいろいろな種類の順序数崩壊関数がありますが、TFBまでの順序数崩壊関数はほとんどがこの講座で取り上げたθ関数かψ関数をベースとしているので、この講座で定義式を読めるようになっていれば定義が少し変わっても理解できるだろうと思います。そしてTFBの先にも、さらに強い順序数崩壊関数の世界があります。オメガ収束点までは、今回の講座の最後に簡単に紹介しましたが、さらにその先もあります。なんと「巨大基数の崩壊」という世界に入っていくのです。このあたりの話はいろいろと混沌としていて私もまだ十分に整理できていませんが、せっかくなので次回の講座でさらっと雰囲気だけでも紹介しようと思います。

次回: (12) 巨大基数の崩壊