不可思議 (ふかしぎ) は、日本語の数の単位の1つである。通常、一不可思議で\(10^{64}\)を表す。
由来[]
恒河沙より先は、全て仏典を由来とする仏教用語である。不可思議は「思いはかることもできず、言語でも表現できないもの」を意味する[1]。これは例えば『今昔物語集』3巻3話「無量無辺不可思議那由他恒河沙の国土を過ぎ行きて」などの表現に使われている。
不可思議が具体的な数の単位として登場したのは『算学啓蒙』からであり、日本語の数の単位としての根拠となる『算法統宗』と『塵劫記』にも掲載されている[2]。
文献による違い[]
一般的に一不可思議\(=10^{64}\)として使用されているのは、現在の日本で使われている数の単位が『塵劫記』の1634年 (寛永11年) 版に基づいるためである。これは時代や文献によって異なる。『塵劫記』の初版と『算法統宗』では無量大数が掲載されていないため、不可思議が最大の数である。
また、『大方広仏華厳経』の仏陀跋陀羅による訳でも不可思議が登場するが、定義が異なり、たまたま表記が一致するだけの別物である。阿僧祇や那由他と違い、唯一1つの訳でしか登場しない数でもある。
文献 | 著者 | 時代 | 方式 | 大きさ |
---|---|---|---|---|
華厳経 (六十華厳)[3] | 仏陀跋陀羅 (訳) | 418年から420年 | 上数 | \(10^{10\times2^{114}}=10^{207691874341393105141219853168803840}\approx10^{10^{35.31742}}\) |
算法統宗[2] | 程大位 | 1592年 | 中数万万進 | \(10^{120}\) |
塵劫記[2] | 吉田光由 | 初版 (1627年) | 万万進 | \(10^{47}\) |
寛永8年版 (1631年) | 中数万万進 | \(10^{80}\) | ||
寛永11年版 (1634年) | 中数万進 | \(10^{64}\) |
使用例[]
- ショートスケールのTen-vigintillionは1不可思議に等しく、One-unvigintillionは100不可思議に等しい。
- ドナルド・クヌースが考案した-yllionでは、One-quadryllionが1不可思議に等しい[4]。
- \(52!\)は約8066不可思議である。つまり、ジョーカーを除いたトランプの山の総パターン数に等しい。 (\(80658175170943878571660636856403766975289505440883277824000000000000\))
- トランプ52枚を並べてできる最大の素数は約9999不可思議である[5][6]。 (\(9999888877776666555544443333222213131313121212121111111110111010101\))
- 太陽と同じ質量のブラックホールがホーキング放射により蒸発するには2不可思議年程度かかる[7]。
- 量子力学の不確定性原理により、原子の位置が自発的に移動する可能性がわずかながら存在する。そのような場合、固体でも長い時間スケールでは流体として振る舞うことになる。陽子崩壊が起こらない場合、10不可思議年程度の時間スケールでは、全ての物質は滑らかな球体となる[8]。
- 偽の真空崩壊までの標準模型の維持時間は、95%信頼区間の下限が10不可思議年である。上限は\(10^{725}\)年と、推定幅はかなり大きい[9]。
出典[]
- ↑ 新村出 (編者). (2021, 第4刷) "広辞苑 第七版, ふかしぎ【不可思議】 (p2534)". 岩波書店. ISBN: 978-4-00-080131-7
- ↑ 2.0 2.1 2.2 高杉親知. (Oct 2, 2002) "無量大数の彼方へ". 思索の遊び場.
- ↑ "T09n0278_029 大方廣佛華嚴經 第29卷, 心王菩薩問阿僧祇品第二十五". CBETA 漢文大藏經.
- ↑ Robert P. Munafo. "[http://www.mrob.com/pub/math/largenum-2.html The Knuth -yllion Notation]" Large Numbers, page 2.
- ↑ "巨大数大好きbot 2016年12月3日 3:22 (JST) のつぶやき". Twitter.
- ↑ Kyodaisuu. "トランプ52枚を並べてできる最大の素数". 巨大数研究 Wiki, ユーザーブログ:Kyodaisuu.
- ↑ Steven Frautschi. "Entropy in an Expanding Universe". Science, 1982; 217 (4560) 593-599. DOI: 10.1126/science.217.4560.593
- ↑ Freeman J. Dyson. "Time without end: Physics and biology in an open universe". Reviews of Modern Physics, 1979; 51 (3) 447. DOI: 10.1103/RevModPhys.51.447
- ↑ Anders Andreassen, William Frost & Matthew D. Schwartz. "Scale-invariant instantons and the complete lifetime of the standard model". Physical Review D, 2018; 97 (5) 056006. DOI: 10.1103/PhysRevD.97.056006