無量大数 (むりょうたいすう) は、日本語の数の単位の1つである。通常、一無量大数で\(10^{68}\)を表す。
概要[]
由来[]
恒河沙より先は、全て仏典を由来とする仏教用語である。無量は「はかり知れないほど大きい量、莫大な量」[1]、大数は「大きい数」を指す言葉であり[2]、あわせて「はかり知れないほど大きな数」という意味になる。
表記のルール[]
無量大数は、日本語で使われる漢数字では最も大きな数詞である。そして現在の漢数字による位取りは万進であるため、例えば\(10^{71}\)を指して一千無量大数と呼ぶことはできるが、\(10^{72}\)を指して一万無量大数と呼ぶことはできない。例えば『吸血鬼すぐ死ぬ』で行われた、自己申告で好きな票数を入れられるという方式の人気投票では無量大数の上に更に澗までの漢数字が使用されているが、本来このような表記はすることができないことになる[3]。
即ち、現在の命数法で可能な最も巨大な日本語の自然数は、九千九百九十九無量大数九千九百九十九不可思議九千九百九十九那由他九千九百九十九阿僧祇九千九百九十九恒河沙九千九百九十九極九千九百九十九載九千九百九十九正九千九百九十九澗九千九百九十九溝九千九百九十九穣九千九百九十九𥝱九千九百九十九垓九千九百九十九京九千九百九十九兆九千九百九十九億九千九百九十九万九千九百九十九\(\approx9.999\cdots\times10^{71}\)である。ただし、通常はこれよりはるか手前で指数表記が使用されるため、あえて記載する以外では滅多に見かけるものではない。
文献による違い[]
「無量数」と「無量」と「大数」[]
無量大数は、日本語の数の単位としての根拠となる『塵劫記』に掲載されている。他の巨大数と同じくその起源を『算学啓蒙』とするが、『算学啓蒙』に掲載された当初は無量数という表記であった[4]。不可思議までを掲載している『算法統宗』と『塵劫記』初版には無量数と記載され、無量大数は掲載されなかった[5]。『塵劫記』1631年 (寛永8年) 版に初めて無量大数が掲載された後、現在の主だった出典となる1634年 (寛永11年) 版にも継続して掲載されたため、最大の数として無量大数が現在でも継承されている[4]。
『塵劫記』の無量大数の「無量」と「大数」の間に傷があることから、後年の写本では誤って2つの数に分割掲載されたため、無量を\(10^{68}\)、大数を\(10^{72}\)とする解釈が稀にある[4]。例えば国立国会図書館が所蔵する2冊の『新編塵劫記』には、無量と大数がそれぞれ別に掲載されていることが確認できる[6][7]。このような分割は1751年 (宝暦元年) の版から始まったと言われている[5]。しかしながら、現在はほとんどの場合この2つに分けることはせず、無量大数という1つの数として解釈するのが一般的である。例えば『広辞苑』第7版は、無量も大数も単に言葉の意味のみを取り上げる一方、無量大数のみを数詞として紹介し、出典を『塵劫記』としている[1][2]。
なお、阿僧祇・那由他・不可思議が存在する『大方広仏華厳経』には無量という数詞は存在するが、無量大数や無量数は存在しない[8][9][10]。『新編塵劫記』における無量の掲載は、先述の経緯から偶然の一致と解釈することが妥当である。
大きさ[]
一般的に一無量大数\(=10^{68}\)として使用されているのは、現在の日本で使われている数の単位が『塵劫記』の1634年 (寛永11年) 版に基づいるためである。先述の通り、これは時代や文献によって表記が異なる。また、位取りのルールも変わるため、無量大数の大きさも変化する。
文献 | 著者 | 時代 | 表記 | 方式 | 大きさ |
---|---|---|---|---|---|
算法統宗 | 程大位 | 1592年 | 無量数 | 中数万万進 | \(10^{128}\) |
塵劫記 | 吉田光由 | 初版 (1627年) | 無量数 | 万万進 | \(10^{55}\) |
寛永8年版 (1631年) | 無量大数 | 中数万万進 | \(10^{88}\) | ||
寛永11年版 (1634年) | 無量大数 | 中数万進 | \(10^{68}\) | ||
新編塵劫記 | 元禄2年版 (1689年) | 無量 | 中数万進 | \(10^{68}\) | |
大数 | 中数万進 | \(10^{72}\) |
使用例[]
- 6番目のトス素数は1無量大数7620不可思議程度である。 (\(\sim1.7619999581\times10^{68}\))
- ショートスケールのHundred-unvigintillionは1無量大数に等しく、One-duovigintillionは10無量大数に等しい。
- 観測可能な宇宙の総質量エネルギーは130無量大数J程度であると見積もられている。多くのパラメーターに不確実性があることから、これは非常に荒い見積もりである[11]。
無量大数を由来とするもの[]
- 『キン肉マン』の2011年から連載を開始した新シリーズには「完璧・無量大数軍 (パーフェクト・ラージナンバーズ)」という組織が登場する[12]。
- トレーディングカードゲームの『デュエル・マスターズ』に無量大数とグーゴルプレックスに因んだ「無量大龍 グーゴルプレックス」というカードがある[13]。当初は「フカセツフカセツテン」となる可能性もあった[14]。
出典[]
- ↑ 1.0 1.1 新村出 (編者). (2021, 第4刷) "広辞苑 第七版, む-りょう【無量】 (p2869)". 岩波書店. ISBN: 978-4-00-080131-7
- ↑ 2.0 2.1 新村出 (編者). (2021, 第4刷) "広辞苑 第七版, たい-すう【大数】 (p1754)". 岩波書店. ISBN: 978-4-00-080131-7
- ↑ 盆ノ木至. "(吸血鬼すぐ死ぬアニメ二期制作中!)盆ノ木至(最新22巻9/8発売!) 2020年7月1日 19:13 (JST) のつぶやき". Twitter.
- ↑ 4.0 4.1 4.2 高杉親知. (Oct 2, 2002) "無量大数の彼方へ". 思索の遊び場. (archive.org, 2006-07-19)
- ↑ 5.0 5.1 師尾潤. "数の名前について(第三版)". 雨粟莊.
- ↑ 吉田光由. (出版年不詳) "新編塵劫記 3巻". 国立国会図書館デジタルコレクション.
- ↑ 吉田光由. (1689) "新編塵劫記 3巻". 国立国会図書館デジタルコレクション.
- ↑ "T09n0278_029 大方廣佛華嚴經 第29卷, 心王菩薩問阿僧祇品第二十五". CBETA 漢文大藏經.
- ↑ "T10n0279_045 大方廣佛華嚴經 第45卷, 阿僧祇品第三十". CBETA 漢文大藏經.
- ↑ "T10n0293_010 大方廣佛華嚴經 第10卷, 入不思議解脫境界普賢行願品". CBETA 漢文大藏經.
- ↑ "Mass, Size, and Density of the Universe". National Solar Observatory.
- ↑ "キン肉マン公式サイト". 週プレNEWS.
- ↑ "無量大龍 グーゴルプレックス(DMEX14 S5/S10)" タカラトミー公式.
- ↑ カワサキ(開発主任K). "2021年2月9日19時16分 (JST) のつぶやき". Twitter.