SI接頭語 (Préfixes du SI) 、とは、国際単位系 (SI; Système International d'unités) において、SI単位およびいくつかのSI併用単位の前に付けられる倍数および分量接頭語である。SI接頭語を含むSI単位系の全体は、CGPM (国際度量衡総会) によって決定され、CIPM (国際度量衡委員会) が代執行し、その内容はBIPM (国際度量衡局) が発行する国際単位系国際文書のフランス語版が正式なものとして定められている[1]。SI接頭語は現在24個ある[2][3]。
英語のprefixには「接頭語」と「接頭辞」の2通りの訳があるが、SI prefixの語訳について、国際単位系国際文書第9版日本語版[4]、日本産業規格 (JIS Z 8000-1) 、理科年表[5]などでは「SI接頭語」、計量単位令[6]では単に「接頭語」としているため、本Wikiではそれに倣い、SI prefixについてはSI接頭語 (または語弊がない場合は接頭語) と呼称する。
概要[]
国際単位系では原則として、物理量に1つだけ単位を定義し、その大きさを十進法で表すために、10の冪乗倍の数を表す接頭語をつけることで、1つの単位だけで大きさを表す。これがSI接頭語の役割である[1]。
SI接頭語は、正式には国際単位系が包括的な規定が確立された1960年に決定されたが、いくつかのSI接頭語は、国際単位系の前身となるメートル法の時代に決定・使用されているものが含まれる。最も古いものは1973年に作成され、1795年のメートル条約に取り込まれた[7][8]。現在のSI接頭語は、2022年の第27回CGPMで決定されている[3]。
なおSI接頭語という名ではあるものの、SI単位との併用が認められているいくつかの非SI単位でも使用される。またその派生として、正式に認められているわけではないものの、しばしば個数や貨幣単位など、日常的な用途でSI接頭語に由来する量が使用されることもある。
SI接頭語の一覧[]
小数の漢数字表記については『算法統宗』を基準としている。
和名 | 英名 | 記号 | 大きさ | 制定年 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
指数 | 十進数表記 | 漢数字 | ||||
クエタ | quetta | Q | \(10^{30}\) | \(1000000000000000000000000000000\) | 百穣 | 2022年 |
ロナ | ronna | R | \(10^{27}\) | \(1000000000000000000000000000\) | 千秭 | 2022年 |
ヨタ | yotta | Y | \(10^{24}\) | \(1000000000000000000000000\) | 一秭 | 1991年 |
ゼタ | zetta | Z | \(10^{21}\) | \(1000000000000000000000\) | 十垓 | 1991年 |
エクサ | exa | E | \(10^{18}\) | \(1000000000000000000\) | 百京 | 1975年 |
ペタ | peta | P | \(10^{15}\) | \(1000000000000000\) | 千兆 | 1975年 |
テラ | tera | T | \(10^{12}\) | \(1000000000000\) | 一兆 | 1960年 |
ギガ | giga | G | \(10^{9}\) | \(1000000000\) | 十億 | 1960年 |
メガ | mega | M | \(10^{6}\) | \(1000000\) | 百万 | 1874年 (1960年にSI導入) |
キロ | kilo | k | \(10^{3}\) | \(1000\) | 千 | 1793年 (1960年にSI導入) |
ヘクト | hecto | h | \(10^{2}\) | \(100\) | 百 | 1793年 (1960年にSI導入) |
デカ | deca | da | \(10^{1}\) | \(10\) | 十 | 1793年 (1960年にSI導入) |
\(10^{0}\) | \(1\) | 一 | ||||
デシ | deci | d | \(10^{-1}\) | \(0.1\) | 一分 | 1793年 (1960年にSI導入) |
センチ | centi | c | \(10^{-2}\) | \(0.01\) | 一厘 | 1793年 (1960年にSI導入) |
ミリ | milli | m | \(10^{-3}\) | \(0.001\) | 一毛 | 1793年 (1960年にSI導入) |
マイクロ | micro | µ | \(10^{-6}\) | \(0.000001\) | 一微 | 1874年 (1960年にSI導入) |
ナノ | nano | n | \(10^{-9}\) | \(0.000000001\) | 一塵 | 1960年 |
ピコ | pico | p | \(10^{-12}\) | \(0.000000000001\) | 一漠 | 1960年 |
フェムト | femto | f | \(10^{-15}\) | \(0.000000000000001\) | 一須臾 | 1964年 |
アト | atto | a | \(10^{-18}\) | \(0.000000000000000001\) | 一刹那 | 1964年 |
ゼプト | zepto | z | \(10^{-21}\) | \(0.000000000000000000001\) | 一清浄 | 1991年 |
ヨクト | yocto | y | \(10^{-24}\) | \(0.000000000000000000000001\) | 1991年 | |
ロント | ronto | r | \(10^{-27}\) | \(0.000000000000000000000000001\) | 2022年 | |
クエクト | quecto | q | \(10^{-30}\) | \(0.000000000000000000000000000001\) | 2022年 |
SI接頭語ではない倍数および分量接頭語[]
正式にはSI接頭語は上記の通り24個あるが、これ以外にもSI接頭語のようなものが存在する。これは様々な理由や背景があるが、いずれも正式なSI接頭語ではない。なお、個人が提案した倍数および分量接頭語は無数にあるため、本項目ではSI接頭語と関連の深いもののみを取り上げる
2進接頭辞[]
コンピューターの世界では、例えばデータ量の大きさをキロバイトやメガバイトと呼ぶように、習慣的にSI接頭語と同じ倍数接頭辞を使用してきた。ただし、コンピューターの世界は2進数ベースであるため、\(1024^{n}\approx1000^{n}\)と見なして使用してきた。ところが技術改善によって大きな単位が使用されるようになると誤差が大きくなり、訴訟に発展するなど問題が生じるようになった[9]。このためIEC (国際電気標準会議) は、IEC 60027-2: 2005[10][11]にてSI接頭語と区別可能な2進接頭辞 (Binary prefix) を定めている。これは現在IEC 80000-13:2008に引き継がれる[12]
2進接頭辞は、自由に従来の表現と切り替えられる形で一部企業の製品が既に使用しているものの[13]、あまり定着しているとはいいがたい。また、2進接頭辞の記号はSI接頭語の流用であるため、BIPMは2006年の国際単位系国際文書第8版のSI接頭語の項目にて、SI接頭語は10の冪乗を表すものであり、IEC 60027-2: 2005のように2の冪乗を表すために用いられるべきではないとする注釈を入れている[10][11]。
和名 | 英名 | 記号 | 大きさ | SIとの誤差 | |
---|---|---|---|---|---|
指数 | 十進数表記 | ||||
キビ | kibi | Ki | \(2^{10}\) | \(1024\) | 約2.40% |
メビ | mebi | Mi | \(2^{20}\) | \(1048576\) | 約4.86% |
ギビ | gibi | Gi | \(2^{30}\) | \(1073741824\) | 約7.37% |
テビ | tebi | Ti | \(2^{40}\) | \(1099511627776\) | 約9.95% |
ペビ | pebi | Pi | \(2^{50}\) | \(1125899906842624\) | 約12.59% |
エクスビ | exbi | Ei | \(2^{60}\) | \(1152921504606846976\) | 約15.29% |
ゼビ | zebi | Zi | \(2^{70}\) | \(1180591620717411303424\) | 約18.06% |
ヨビ | yobi | Yi | \(2^{80}\) | \(1208925819614629174706176\) | 約20.89% |
なお、SI単位のロナとクエタに相当するロビ (robi, Ri, \(2^{90}\)) とクエビ (quebi, Qi, \(2^{100}\)) については、CIPMのCCU (単位諮問委員会) によって提案されているが[14]、現時点で正式な採用はされていない。
和名 | 英名 | 記号 | 大きさ | SIとの誤差 | |
---|---|---|---|---|---|
指数 | 十進数表記 | ||||
ロビ | robi | Ri | \(2^{90}\) | \(1237940039285380274899124224\) | 約23.79% |
クエビ | quebi | Qi | \(2^{100}\) | \(1267650600228229401496703205376\) | 約26.77% |
廃止された接頭語[]
ミリア (myria) は、\(10^{4}\)を表す倍数接頭語として1793年に登場し、1795年から1935年までメートル法に採用され、主に長さの単位として使用されていた[7]。当初の記号はmyであったが、1904年にはMとなった。しかしこれは、1874年に設定されたメガと被るものであり、メガは主に電気工学の中で広く採用されていた。記号の重複と大きさの違いによる混乱を避けるため、1935年に廃止することが決定された[14]。
なお、対の関係となる\(10^{-4}\)を表す分量接頭語についてミリオ (myrio) だとする記述もいくつかあり、メートル法に採用されたという主張もあるが、信憑性は不明である。\(10^{-4}\)を表す分量接頭語は広く採用されていないだろうとする意見もある[15]。ミリオがミリアの同義語として使用された例はある[16]。
和名 | 英名 | 記号 | 大きさ | 使用 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
指数 | 十進数表記 | 漢数字 | ||||
ミリア (ミリオ) | myria (myrio) | M (my) | \(10^{4}\) | \(10000\) | 一万 | 1793年 - 1935年 |
採用されていない接頭語[]
2022年に追加された4つのSI接頭語に関する議論で、Richard J. C. Brownによる草案では\(10^{30}\)の倍数接頭語をクエカ (quecca) とする提案が出されていたが[17][18]、上記の通り実際にはクエタ (quetta) が採用されている。
また、2019年のCCU第24回会議議事録には\(10^{33}\)を表す倍数接頭語としてブンデカ (bundecca, B) 、\(10^{-33}\)を表す分量接頭語としてブンデクト (bundecto, b) が提案されていたが[18]、2021年のCCU第25回会議議事録には提案がなく[19]、2022年にも追加はされなかった[2]。理由は不明であるが、新たに制定されるSI接頭語は既に定められている単位の記号との重複を避ける決まりがある一方で、ブンデカは併用可能な非SI単位のベル、ブンデクトは2019年まで非SI単位であったバーンと被ってしまうためと考えられる。
和名 | 英名 | 記号 | 大きさ | 提案年 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
指数 | 十進数表記 | 漢数字 | ||||
ブンデカ | bundecca | B | \(10^{33}\) | \(1000000000000000000000000000000000\) | 十溝 | 2019年 |
ブンデクト | bundecto | b | \(10^{-33}\) | \(0.000000000000000000000000000000001\) | 2019年 |
hella[]
2022年のロナやクエタの採用前には、様々な企業や団体から、独自の倍数接頭辞が無数に提案または使用されていた。2022年のCGPMの決議文の中には、そのような非公式な接頭辞名がデファクトスタンダードとなってしまうことを防ぐために行動する必要があるという考慮事項についての記述がある[20]。
そしてこの決議文での言及はないものの、2021年のCCU第25回会議議事録ではGoogleが使用しているヘラバイトが名指しで言及されている[19]。ヘラ (hella) は\(10^{27}\)を表す倍数接頭語である。
Xera[]
- Xera も参照して下さい。
Xeraは\(10^{27}\)を表す倍数接頭辞であると主張されることのある接頭語であるが、実際には存在しない倍数接頭語である。英語版Wikipediaの『FLOPS』での記述が初出と言われている。また、Xeraの用語が出現したのは2008年頃であり、\(10^{27}\)を表す正式なSI接頭語であるロナの決定前である。
出典[]
- ↑ 1.0 1.1 Bureau international des poids et mesures. (2022) "Le Système international d' unités 9e édition". Bureau international des poids et mesures.
- ↑ 2.0 2.1 "The International System of Units (SI): Prefixes". Bureau international des poids et mesures.
- ↑ 3.0 3.1 "Résolution 3 de la 27e CGPM (2022)". Bureau international des poids et mesures.
- ↑ 産業技術総合研究所 計量標準総合センター. (訳) (2019)"国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版". 産業技術総合研究所 計量標準総合センター
- ↑ 国立天文台 (編) (2021). "理科年表 2022". 丸善出版. ISBN: 978-4-621-30648-2
- ↑ "計量単位令 第四条(十の整数乗を乗じたものを表す計量単位) e-Gov 法令検索."
- ↑ 7.0 7.1 Claude Antoine Prieur. (1795) "Nouvelle instruction sur les poids et mesures, et sur le calcul décimal, adoptée par l'Agence temporaire des poids et mesures". Chez Du Pont.
- ↑ "Grandes lois de la République". Digithèque de matériaux juridiques et politiques.
- ↑ Bernard Zimmerman (2006). "Notice of Class Action and Proposed Settlement (Orin Safier v. Western Digital Corporation)". Western Digital Corporation.
- ↑ 10.0 10.1 Bureau international des poids et mesures. (2006) "Le Système international d' unités 8e édition". Bureau international des poids et mesures.
- ↑ 11.0 11.1 産業技術総合研究所 計量標準総合センター. (訳) (2006) "国際単位系(SI)第8版(2006)日本語版". 産業技術総合研究所 計量標準総合センター
- ↑ "IEC 80000-13:2008". International Organization for Standardization.
- ↑ "データ・ストレージ値". IBM
- ↑ 14.0 14.1 Richard J. C. Brown. "A further short history of the SI prefixes". Metrologia, 2022; 60, 013001. DOI: 10.1088/1681-7575/ac6afd
- ↑ Russ Rowlett. "How Many? A Dictionary of Units of Measurement". University of North Carolina at Chapel Hill.
- ↑ Johann Gottfried Dingler. (1823) "Polytechnisches Journal, 11".
- ↑ Richard J. C. Brown. "Extending the available range of SI prefixes". Bureau International des Poids et Mesures.
- ↑ 18.0 18.1 Consultative Committee for Units. (Oct 8-9, 2019) "Consultative Committee for Units (CCU) Report of the 24th meeting". Bureau International des Poids et Mesures.
- ↑ 19.0 19.1 Consultative Committee for Units. (Sep 21-23, 2021) "Consultative Comm5ttee for Units (CCU) Report of the 25th meeting". Bureau International des Poids et Mesures.
- ↑ Comité international des poids et mesures. (Nov 15-18, 2022) "Résolutionsde la Conférence généraledes poids et mesures (27e réunion)". Bureau international des poids et mesures.